泌尿器科の疾病と解説

前立腺肥大症

おしっこが出ずらくなった男性では、「年取ったなあ」と自分で納得してしまっている方が多く見られます。4~5人に1人は前立腺の病気が有るといわれています。治療で良くなることが多いので泌尿器科の受診を考慮してください。
肥大症ではなくて前立腺癌によって症状が出ていることも有りますので、泌尿器科受診のメリットは高いと考えております。

どんな症状の時に肥大症を疑えば良いのか?

上記したような各種の「おしっこの調子が悪い」という症状では前立腺肥大症の検査をしたほうがよろしいです。
就寝時間帯に尿量が多いために夜間頻尿となっている病態は、「夜間多尿症」といって前立腺肥大症とは異なる病態です。”排尿日誌”をつけてもらえば判ります。

どういう検査をするの?

だいたいの方では、下記の手順で検査していきます。

  1. 「国際前立腺症状スコア(IPSS)←下記参照」というアンケートを記入してもらって自覚症状上の重症度を評価します。
  2. 直腸診や蓄尿状態での超音波検査を行って、前立腺の大きさや形態を評価します。
  3. 前立腺癌を否定する必要が有りますので、PSAという血中マーカー物質を採血測定します。
  4. 排尿習慣には個人差が大きいので、どのようなパターンでおしっこしているのか排尿日誌を記録してもらいます。
  5. 尿流量測定(専用の器械に向かって立ちしょんべんをしてもらいます)と残尿測定によって、重症度を客観的に評価します。
  6. レントゲン検査が出来る病院では(当クリニックでは出来ませんが)、尿道から管を入れたり造影剤を入れて膀胱尿道の画像評価をします。

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どういう治療を行うの?

上記の検査で、治療の必要性を評価します。軽症と判定すれば無治療で経過観察になります。治療必要と判定された場合には、α1ブロッカーを中心とした内服治療が行われます。9割の患者さんは内服にて症状がコントロールされます。1割の患者さんでは内視鏡手術などの外科的な治療が必要となります。

内服をどのくらい続ければ治るの?

残念ながら、前立腺肥大症は内服治療にて治ってしまう病気では有りません。症状をコントロールするだけです。内服をやめてしまうと1~3ヶ月で元の症状に戻ってしまいます。内服しないと残尿が増えて、膀胱が痛んでしまい、いずれは自分で排尿できなくなってしまうのです。心臓の薬がずーっと内服しないといけないのと同様に前立腺の薬も継続して内服する必要が有ります。

尿道炎

尿道から膿が出るとか、排尿痛があるといった尿道炎の大部分は性感染症(STD)です。起炎菌は殆どがクラミジア・トラコマティスや淋菌が占めています。
かつては、尿道炎になっても、「いやー、もらっちゃたよ」等と暢気に構えていられたのですが、近年ではその認識を改めなくてはいけなくなっています。これから述べる事を良ーく覚えておいてください。

1)性感染症(STD)は確実に増えています

近年では、性風俗店での感染よりも、友人などの素人さんからの感染が増えています。調査結果では、15~29歳の一般女性の15~20人に一人はクラミジア・トラコマティスに感染していると推定されています。

2)「自分は症状がないから大丈夫だ」は、当てになりません!

男性では50~60%の患者さんが、女性では80%もの患者さんが、自分では感染していることに気がついていません。このように自覚症状は当てにならないことも流行の原因となってしまっているのです。女性では男性よりも自覚症状が出にくいために、実際の感染患者数は男性よりも2倍多いと言われています!

3)「もらっちゃたとしても、治療すれば治るんでしょ?」

医者が言うのもなんですが、必ず治るというわけではなくなっているのが実情なのです。最近の問題として、クラミジア・トラコマティスも淋菌も抗生物質が効かない”耐性化”が急速に進んでいるのです。有効な薬は何種類かしかなくなってしまっているのです!!将来はどうなってしまうのでしょうか?心配しています。

4)「薬が効かなかったとしても別に重症になるわけではないでしょ?」

認識を改めてもらう必要が有ります。尿道炎にかかった場合には、粘膜が痛んでしまうので、エイズウイルスに10~20倍もかかりやすくなってしまうことが判っています。エイズウイルスにかからなかったとしても、女性の場合には「骨盤内感染症」「不妊症」「子宮外妊娠」などの後遺症が報告されています。一生の問題なのです。

5)「SEXはしてないよ。口でしてもらっただけだから移されるわけないじゃない」

この知識は間違いです。オーラルセックスの増加により口の中に淋菌やクラミジアがいる女性が増えてしまっているのが現状です。。

「心配になった。もっと詳しいホームページは?」

色々ホームページが出来ています。是非見てみてください。
性の健康医学財団
性と健康を考える女性専門家の会

神経因性膀胱

この病気は皆さん殆ど知らないと思います。普通におしっこが出来るのは、実は”蓄尿”と”排尿”に関係する神経が巧妙に調整してくれているからなのです。脳から膀胱に至る神経経路のどこかで障害を受けると、正常な膀胱機能が維持できなくなってしまうのです。

どんな病気でなってしまうの?

脳の障害が起きる病気(脳梗塞・脳出血・脳血栓など)、脊髄の病気(頸椎症、交通事故などによる脊髄損傷・椎間板ヘルニアなど)、末梢神経の障害(子宮癌手術後・直腸癌手術後・糖尿病など)など色々有ります。

具体的にはどんな症状なの?

障害された場所によって、蓄尿障害(尿が近くて我慢できない)や、逆に排尿障害(おしっこの感覚が無い・おしっこが出ずらい)など多彩な症状を認めます。

どんな治療法になるの?

正直なところ、神経障害が完成してしまっている状態では回復することは期待薄なのが現状です。

蓄尿障害の患者さん

膀胱筋肉の過反射による場合には、尿失禁で使用する内服薬を使います。括約筋の緊張低下による場合にも内服薬を試みます。効果が得られない場合には、オムツや集尿器や尿道バルーン留置になってしまいます。

排尿障害の患者さん

軽度の場合には、膀胱筋肉の収縮力をあげる内服薬や、括約筋を緩める内服薬を投与します。それでも残尿のある場合には、「間欠自己導尿法」を指導いたします。自分で定期的に尿道からカテーテルを挿入して尿を出す方法です。やってみるとかなりの方が簡単に習得できます。高齢な方などでは、尿道バルーン留置になってしまう方もいらっしゃいます。
男性の場合には、「経尿道的切除術」を行うことも有ります。排尿時の抵抗となっている前立腺や括約筋を切開する方法です。括約筋を切開するのが多すぎると尿失禁となる可能性も有ります。

ED(勃起障害)

定義は「性交時に有効な勃起が得られないため満足な性交が行えない状態を指し、通常性交の機会の75%以上で性交が行えない状態」となっています。以前は、勃起障害はインポテンツ(不能)と言われておりましたが、男性の尊厳を損なうということで近年では勃起障害と呼ばれるようになりました。
勃起障害の原因は、"心因性"、"陰茎自体の障害によるもの"、"末梢または中枢神経障害によるもの"、"陰茎の動静脈の障害"、"薬剤性”などで起きます。色々な薬で勃起障害が起こりうるので、何らかの薬を飲み始めてから元気がなくなったという方は主治医に相談してみてください。
勃起障害は若年齢層でもある程度見られる症状であり、一人で悩まずに専門医を受診してみてください。参考までに、1998年度に日本で行われた調査結果のグラフを載せておきます。

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患者さん向けのホームページ

製薬会社のホームページに詳しい情報が載っています。
ファイザー製薬
バイエル製薬
日本新薬

LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)

院長からの報告

“男性更年期”と表現した方が判りやすいのではないかと思います。女性の“更年期障害”同様に、男性でも男性ホルモン分泌量の減少により40〜50歳代に心や体の不調を来す事があるのです。

どんな症状があるの?

症状は多彩です。代表的なのは、抑うつ気分、苛立ち、倦怠感、性欲低下、勃起障害などがあります。

どう診断するの?

AMS調査票で重症度を判断します。その上で、血中テストステロン値を測定します。

どんな治療をするの?

テストストロンの補充療法となります。一般的には、2〜4週に1回の筋肉注射が行われますが、毎日の内服を選択する患者さんもいます。他には、漢方薬での治療が行われる事もあります。 なお、テストストロン補充療法は前立腺癌の患者さんや睡眠時無呼吸症候群の方は病状を悪化させてしまうので禁忌となっております。

男性不妊症

定義は、「通常の性行為にもかかわらず12ヶ月以上妊娠が成立しない場合」です。15%のカップルは不妊症とされています。不妊症の原因は、25%は男性のみの異常があるカップル、25%は男女両方に異常の有るカップルと言われております。つまり不妊症カップルでは約50%に男性因子が関わっている訳です。男性不妊症には、精子の数が少ない乏精子症や精子の動きが悪い精子無力症、精液中に精子が存在しない無精子症などが挙げられます。女性での検査に比べて男性での検査の方が簡単ですぐに判ります。不妊症のカップルでは、男性の検査を優先すべきと考えています。

男の場合どんな検査をするの?

不妊症の原因となる病歴が無いかをまず問診で確認します。その後、生殖器の触診(精巣の大きさ・精索静脈瘤の有無・前立腺炎の有無など)をします。その後に精液検査を行います。必要が有りそうならば、前立腺や精嚢腺の超音波検査や、血液検査(下垂体ホルモンや男性ホルモン値の測定)を施行する事もあります。

男の場合どんな治療をするの?

生殖医療の進歩(精巣内精子回収法では精巣内に精子が存在すれば顕微受精が成功する例が報告されています)の為に、不妊症の治療の主体は婦人科が行うようになっています。泌尿器科で行う治療は、「視床下部下垂体障害による性腺刺激ホルモンの補充療法」、「精路閉塞症による手術」、「精索静脈瘤の手術」等があります。総合病院での治療が必要なことが多く、クリニックでは診断のみで、治療は総合病院へ紹介することが多いです。

慢性前立腺炎

院長からのワンポイント

この病気は、泌尿器科専門医でもスッキリと治すことの難しい病態です。

慢性前立腺炎って何?

慢性前立腺炎とは、下腹部や陰部や肛門周囲に、違和感・不快感・痛みを感じる等の症状が現れる病態です。排尿時や射精時に痛みや不快感を伴う場合や、頻尿を呈することもあります。
通常は不快感程度で日常生活に支障がないことが多いのですが、人によっては苦痛でしょうがなくなってしまう方もいます。

慢性前立腺炎の原因は何?

原因としては、細菌感染やクラミジア感染が関与していて原因がハッキリ解る場合も有りますが、多くの場合は原因が判定できません。アレルギーの関与なども考えられていますが、実際のところは原因不明です。

どういう検査をするの?

まずは検尿検査で細菌感染の有無を確認します。その後、直腸診(炎症が急性でなければ前立腺マッサージも行います)をした上で、再度検尿してもらいます。感染が疑われる場合には培養検査を行って細菌の種類を調べます。

どういう治療を行うの?

原因が細菌であった場合は抗生物質で治療します。前立腺は血液から抗生物質が入って来にくい臓器ですので、他の感染症(膀胱炎や気管支炎など)に比べると、内服期間は長くなってしまいます。一般的には、2週間から3ヶ月程度必要なことが多いです。そのように長期間の内服をしても、全ての患者さんで症状がスッキリとは消失するわけではないのが現状です。症状が許容範囲程度に落ち着いて、検尿所見で正常化すれば治療を終了することが多いです。
原因が細菌でなかった場合は、医者の立場から見ても(患者さんから見るともっと困るでしょうが)、正直困ってしまいます。この場合には、前立腺の炎症をとる目的で生薬系の内服薬や漢方薬、前立腺肥大症に用いられる薬や対症療法として鎮痛解熱剤などを試みる場合が多いです。色々と試みますが、症状が許容範囲程度に落ち着いてくれれば治療成功と考えるのが現状です。
なお、花粉症やアレルギーで抗ヒスタミン剤を常用している患者さんは、それらを休薬・減薬すると症状が楽になる事もあります。

生活習慣で気をつける事は?

この病気では生活習慣はかなり重要です。香辛料などの刺激物やアルコール・カフェインにより症状が悪化することがシバシバ見られます.特にカフェインはコーヒーや緑茶だけではなくスタミナドリンクやチョコレートなどにも含まれますので本人が思っている以上に摂取している事がありますので要注意です。また,長時間座っていると症状が悪化する人もシバシバ見られます.この場合は、定期的に歩行する事や長ブロが良いようです。

他に治療法は無いのか?

ハリ治療や低周波治療を行っているところも有るようですが、正直なところ治療効果は解りません。

亀頭包皮炎

どんな病気?

亀頭や包皮が赤く、痒く(場合によっては痛く)なってしまう状態です。細菌による場合もありますが、多くはカンジダという真菌が付着しておこったものです。

どんな治療をするの?

普通は塗り薬で良くなります。しかし、仮性包茎の患者さんで局所をきれいな状態で乾燥させておくのが困難な場合は治るのが遅くなります。また、糖尿病やアトピー性皮膚炎の患者さんでは塗り薬だけでは治らずに、内服薬の併用が必要となる事もあります。

精索静脈瘤

どんな病気?

「陰嚢から下腹部にかけて重苦しい〜痛い」という訴えで来院する事が多い病気です。精巣から流出する静脈が、立位や腹圧にて逆流してしまい精巣の温度が上がってしまうので、痛みを感じると考えられています。重症になると精巣が萎縮して男性不妊症となる事もあります。

どんな治療をするの?

治療は手術しかありませんので、症状が軽ければ放置となります。しかし、上述のごとく男性不妊症の原因の一つでありますので、未婚の方や挙児希望の方は手術を選択する事も多いです。

尿管結石症

院長からの報告

当クリニックでは体外衝撃波治療などの設備がありませんので、内服処方およびフォローアップしかできません。

どんな症状なの?痛いとは聞くけど

“尿管結石は“痛いので有名な病気です。典型的には、側腹部〜腰背部が突然痛くなり、真っ赤なオシッコが出る事で発症します。しかし、激痛を経験せずに肉眼的血尿だけが出る患者さんや、膀胱近くまで降りてきて初めてまるで膀胱炎のような症状のみで発症する患者さんもいます。

どんな治療をするの?

長径10mm以上の大きな結石では自然排石率が低いので、体外衝撃波などの積極的な治療が必要です。サイズの小さな結石の場合は、自然排石を期待して内服治療を行います。しかし、腎臓への影響が大きい場合(水腎症、腎盂腎炎)や疼痛の頻度が多い場合などは、積極的な治療をお勧めする事もあります。

予防法はないの?

色々な事が言われているようです。一番多く見られる成分である、“シュウ酸カルシウム”の場合は有効な薬はありません。原則としての、飲水を多く取る事、寝る3〜4時間前には食事をとらない事は大事です。

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